「相続分の放棄をすれば借金も引き継がなくて済むの?」「相続放棄や相続分の譲渡とは何が違うの?」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
名称が似ているため混同されがちですが、それぞれの効果や手続き、借金の取り扱いは異なります。
相続分の放棄は相続人としての地位を残したまま遺産の取り分を放棄する方法であり、借金の返済義務はなくなりません。借金も含めて相続を辞退したい場合は、家庭裁判所で行う相続放棄を選ぶ必要があります。
今回の記事では、相続分の放棄の効果や手続き、相続放棄や相続分の譲渡との違いをお伝えしていきます。それぞれのメリット・デメリットや適したケースも紹介しますので、自身に適した手続きの判断材料となるでしょう。

このページの目次
相続分の放棄とは?相続放棄との違い
相続分の放棄とは、相続人としての地位を保ったまま、自身の法定相続分(民法900条、901条)を放棄する他の相続人との約束です。
一方で相続放棄(民法938条、939条など)は、自身が最初から相続人ではなかったことにする法的な手続きです。相続開始を知った時から、3カ月以内に家庭裁判所での手続きが必要です。
民法には、相続分の放棄に関する規定はありません。しかし実務上は、相続放棄と別の方法として行われています。方式について法律上の決まりはなく、遺産分割協議の中で意思表示をする方法と、調停・審判の中で家庭裁判所に書面を提出する方法があります。
遺産分割調停・審判の中で相続分の放棄をした場合、家庭裁判所は当該相続人を手続の当事者から除外する排除決定を行います。相続分の放棄をした相続人は、以後の期日に出頭する必要がなくなります。
相続分の放棄をする際には、遺産の中に債務(借金)があるかを確認しましょう。
相続分の放棄は最初から相続人ではなかったことにされる相続放棄とは異なり、相続人としての地位が残ります。よって、被相続人に借金などの債務があった場合、相続分の放棄をしても債務の負担は免れません。相続分の放棄は相続人同士の内部的な意思表示にとどまり、被相続人の債権者との関係には影響しないのです。
時期についても制限がありません。相続放棄は、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に手続きを行いますが、相続分の放棄にはこのような期限がなく、相続開始から遺産分割が成立するまでの間であればいつでも行えます。よって、相続放棄の手続き期間を過ぎてしまった後に、相続財産を受け取らない方法として選ばれることがあります。
| 相続分の放棄 | 相続放棄 | |
| 手続場所 | 当事者同士の話し合い | 家庭裁判所 |
| 期限 | なし | 3カ月以内 |
| 遺産のうち債務の返済義務 | 残る | なくなる |
相続分の譲渡とは?
相続人が、自分の相続分を第三者や他の相続人に自身の相続分の全部または一部を譲り渡すことを「相続分の譲渡」と言います。当事者間の合意や契約書で譲渡は可能で、有償・無償を問わず譲渡として扱われます。
遺産分割の話し合いから早く抜けたい場合や、事業承継など特定の相続人に財産を集中させたい場合に使われます。
相続分の放棄と同様に当事者間の約束ですので、「借金も譲る」と約束しても、債権者(お金を貸している人)の同意がない限り、本来の相続人にも返済義務が残ります。
それぞれの違いを表にまとめてみました。
| 比較項目 | 相続分の放棄 | 相続分の譲渡 | 相続放棄 |
| 内容 | 自分の取り分の全部または一部を放棄する | 自分の取り分を、有償もしくは無償で他の人に渡す | 最初から相続人ではないことにする |
| 財産の行方 | 他の相続人全員に割合に応じて分配されるなど | 譲渡 | 次順位の相続人へ権利が移る |
| 手続場所 | 当事者同士の話し合い | 当事者同士の契約 | 家庭裁判所 |
| 期限 | なし | なし | 相続開始を知ってから3カ月以内 |
| 借金の返済義務 | 残る | 残る | なくなる |
相続分の放棄・譲渡・相続放棄のメリット・デメリット、向いている人
相続分の放棄は、遺産に借金など問題がなく、遺産を受け取りたくない場合に適した方法です。家庭裁判所での手続きや期限はありませんが、相続人としての地位はありますので、後から借金が判明すると返済義務は残ります。
相続分の譲渡は、自分の取り分を特定の相続人や第三者へ譲りたい場合に利用されます。遺産分割協議から早く離れられる点がメリットですが、借金の返済義務はなくならず、第三者への譲渡がトラブルの原因になる可能性があります。
相続放棄は、遺産および相続人としての地位を引き継ぎたくない場合に選ばれる手続きです。
相続開始を知ってから3カ月以内に家庭裁判所への申立てを行う必要があります。放棄すると法律上は初めから相続人ではなかったことになりますが、相続権が次順位の親族へ移る点には注意が必要です。
まとめ
相続分の放棄は、相続人としての地位を残したまま遺産の取り分を辞退する方法であり、家庭裁判所での手続きや期限はありません。一方、借金の返済義務は残るため、債務がある場合には注意が必要です。
特定の人に権利を譲りたい場合は相続分の譲渡、財産も借金も含めて相続人の地位そのものを放棄したい場合は相続放棄が適しています。
また、相続では相続税や譲渡に伴う税金などが問題となるケースもあります。
税金の取り扱いは遺産の内容や相続の状況によって異なりますので、疑問や不安がある場合は、早めに税理士へ相談し、適切なアドバイスを受けることをおすすめします。

監修 玉城 慎之介
税理士/沖縄税理士会/税理士登録2017年/登録番号135867
琉球大学大学院を卒業後、STC国際税務会計事務所へ入社。
その後、STC国際税理士法人を設立。現在はSTCグループの代表として、相続案件のみならず上場企業の国際税務コンサルティング、通算申告から中小企業まで幅広い業態の税務業務、起業支援等に注力。

事務所のある沖縄県と関東を中心に、日本国内はもちろん、国外居住の方まで幅広く対応しております。相続税の申告や手続き、事業承継、第三者承継、国際相続まで、多様なご相談に対応可能です。
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